みなさん、ご機嫌いかかでしょうか。
前回「Steppin’ Out」で夜の街に繰り出したところで、今回はさらに大人な、そしてちょっとノスタルジックな夜更けの空気をお届けします。第29弾です!
紹介するのはDonald Fagen(ドナルド・フェイゲン)の「I.G.Y.(アイ・ジー・ワイ)」。深夜ラジオから流れてきそうな、洗練されたジャズ・ポップです。
ジャケット(アイジーワイ/ドナルドフェイゲン)
国内盤とUS盤のジャケットです。
US盤はいらない?情報なくてモノクロのフェイゲン。いや~渋いですな。
国内盤はいろいろキャッチコピーがついてる。当時はダサっ、とか、なんでタイトル、カタカナで書く?とか思ったりもしたけど今眺めると時代が感じられて趣があるっちゃあるか…🤔


ちなみに、US盤が4:56、日本盤が5:23。
アルバムでは6分くらいだから、US盤はラジオを意識してめっちゃシングル用に短くしたのかな?🤔
ちなみに余談ですが、収録元のアルバム「The Nightfly」本体のジャケットは、深夜のラジオDJに扮したFagen本人が、RCA製のマイク(Type 77-DX)に向かってしゃべっている1枚。
目の前にはターンテーブル、灰皿、マッチブック、そしてChesterfield Kingのタバコの箱。背後の壁の時計は4時9分を指しています。テーブルの上には、Fagenのお気に入りのアルバムだというSonny Rollins and the Contemporary Leadersのジャケットも写り込んでいます。シングルのジャケットだと左側が狭くトリミングされていて、時計(日本盤はお気に入りアルバムも)写ってないかんじですね。
撮影は写真家James Hamilton、場所はマンハッタンのアッパー・イースト・サイドにあるFagenの自宅アパートだそうです。
Fagenは人前に出たがらないタイプだったらしいんだけど、「自伝的なアルバムだから、いっそ顔を出してもいいかと思った」って語ってたそう。ちなみにこの写真、1回目の撮影ではRCAのマイクが逆向きだったせいで、撮り直しになったんだって😅
アーティスト紹介(ドナルド・フェイゲン)
ドナルド・フェイゲンの生い立ち
Donald Fagenは、1948年ニュージャージー州パセーイク生まれ。
当時住んでいたのは、ニューヨークから約50マイル離れた、同じ形の家が並ぶ郊外。本人いわく「退屈な環境」だったそうです。
子どもの頃はChuck BerryやFats Dominoを楽しんで聴いていたものの、ロックが人気になるにつれて物足りなさを感じるようになったらしい。そんな彼の数少ない逃げ場が、マンハッタンから流れてくる深夜のラジオ番組(ジャズやR&B)だったそう。
この曲やアルバム全体に漂う”深夜ラジオ感”は、この少年時代の記憶が基になっているらしい。裏ジャケもそういったことを意図しているとか、してないとか。
本人は、1983年のNMEのインタビューで「DJたちが、とてもロマンチックで華やかな存在に見えた」んだとか。で、「アルバムに添えたメモは、全部が実際に自分に起きたことじゃない、って伝えるためのもの。自分の人生のひとコマくらいのもの」とも。
スティーリー・ダン結成まで
英文学を学ぶためにBard Collegeに進学したFagenは、1967年、キャンパスのコーヒーハウスでWalter Becker(ウォルター・ベッカー)と出会います。
2人は在学中からいくつものバンドを組み(メンバーには、のちに俳優になるChevy Chaseがいたことも!)、やがてバンドSteely Dan(スティーリー・ダン)を結成します。
バンド名は、ビート文学好きだった2人が、作家William S. Burroughs(ウィリアム・S・バロウズ)の小説「裸のランチ」に出てくる”道具”の名前から取ったもの。どんな道具かは……ここでは伏せておきます😅
ブレイクと代表作
彼らは、1972年のデビュー作「Can’t Buy a Thrill」から、「Pretzel Logic」(1974年)、バンドで最も売れた「Aja」(1977年)をリリースします。
Steely Danは次第にライブから離れ、セッション・ミュージシャンを入れ替えながらスタジオで作品を作るスタイルで成功を収めました。
「The Nightfly」のころ
しかしながら、1980年の「Gaucho」制作時には、完璧へのこだわりもあって2人の関係はぎくしゃくし、Beckerは薬物依存とその離脱症状のさなかにありました。
で、1981年6月、Fagenはニューヨーク・タイムズの取材に「14年一緒に書いて演奏してきたから、フランス語で言う”changement d’air”(気分転換)が必要だと決めた」と語り、2人が別々の道を歩むことを認めています。
その約1年半後、1983年のNMEのインタビューでは「14年一緒にやってきて、ウォルターも僕も、お互いから離れる時間が必要だと感じた」「正直、前作(Gaucho)はちょっと輝きに欠けていた」とも話しています。
今回のアルバム「The Nightfly」は、その後Fagenが初めてBecker抜きで作ったソロ作です。
もともとこのアルバム、「Talk Radio」ってタイトルになる予定だったらしいよ。最終的には、深夜のDJを描いたタイトル曲の「The Nightfly」に落ち着いたってわけ、らしい📻
曲の紹介(アイ・ジー・ワイ)
「アイ・ジー・ワイ」ってなんやねん?
って、急に関西?でも中坊の頃にI.G.Yって何の略?って思ったんだよね…
「I.G.Y.」は、1982年10月1日発売のアルバム「The Nightfly」の1曲目で、同年9月にアルバムからの最初のシングルとしてリリースされました。
タイトルの「I.G.Y.」は国際地球観測年(International Geophysical Year)の略で、1957年7月〜1958年12月にかけて、冷戦の緊張が続くなか世界中の科学者が協力して地球科学を研究した、国際的な科学プロジェクトのことです。
1983年のNMEのインタビューで、Fagen本人はこの曲を「テクノロジーが世界の問題を解決してくれる、輝かしい未来(gleaming future)。子どもの目から見た未来像」と説明しています。
続けて「そのほとんどは実現しなかったし、テクノロジーは解決するより多くの問題を生むことも分かった。ただ振り返ってみたかったんだ」とも。

アルバム発売直後の1982年10月、ニューヨーク・タイムズの取材では、歌詞の皮肉は「できるだけ少なく」を目指したと語っていたそう。Steely Danのいつもの皮肉っぽい歌詞に比べて、しみじみとノスタルジックな内容になっています。
Steely Danの皮肉っぽい要素の多くはBecker側が担っていたとされ、その不在がこのアルバムの”温かくノスタルジックな”トーンの理由だと考える人も多いようです(みんな深読みすごいな)。
レコーディング
レコーディングは1981〜82年、ニューヨークとロサンゼルスのスタジオで行われました。プロデュースはSteely Danの作品を手がけてきたGary Katz(ゲイリー・カッツ)です。
かかった期間は、伝記本『Steely Dan: Reelin’ in the Years』(Brian Sweet著)では「録音に8ヶ月」。ところが本人は1983年のNMEのインタビューで「曲を書くのに8ヶ月、録音に1年。デジタル機材のトラブルがたくさんあった」と話していて、ちょっと食い違ってます🤔
このアルバムはポップスにおける完全デジタル・レコーディングの初期の例の一つで、新しい機材の扱いに加えて、ミュージシャンやエンジニアの完璧主義も重なり、録音はかなり難航したみたい。
ドラムへのこだわりも相当なもので、この「I.G.Y.」ではJames Gadson(ジェイムス・ギャドソン)がスネア・キック・ハイハットを、Jeff Porcaro(ジェフ・ポーカロ)がタムのフィルを担当するという分業ぶり。
ホーン隊には、Randy Brecker(ランディ・ブレッカー)(トランペット)とMichael Brecker(マイケル・ブレッカー)(テナーサックス)のブレッカー兄弟も参加しています。
1曲のドラムを2人?
完璧主義もここまで来ると、ごいすーだね…
チャートと評価
チャート成績は、US Billboard Hot 100で最高26位(1982年11月27日付)。これがFagenのソロ名義では唯一のHot 100トップ40ヒットかな。Adult Contemporaryでは8位でした。
1983年のグラミー賞では「Song of the Year」にノミネートされましたが、受賞したのは「Always on My Mind」でした。
もうひとつの評価が、音響の世界での人気。Pro Sound NewsのClive Youngが、2011年1月のブログ記事で、ニューヨークのビーコン・シアターで新しい音響設備を試聴したときのやりとりを紹介しています。
“What’s the name of that Donald Fagan(原文ママ) song that everybody plays? I guess you have to hear that,” joked Dave. (中略) “I.G.Y!” Dave laughed.“Listening wouldn’t be complete without it!”
The “Freebird” of Pro Audio – Clive Young(Pro Sound News)
Youngいわく、この曲はプロ音響界の「Free Bird」で、大きな会場のラインチェックでも音響機器の展示会のスピーカーのデモでも、いずれこの曲が流れてくるんだとか。2位は、はるか後ろにThomas Dolby「Pulp Culture」だそうです。
しかもロジャー・ウォーターズの「The Wall」ツアーでも、PA担当が最初に流した曲は……「当ててごらん」って書いてある😂
1982年の、1957年についての曲が、最近(2010年)の音響の最高峰って、すごくない?
歌詞について
歌詞では、その時代から見た楽観的な未来像—太陽光発電の都市、大西洋横断トンネル、恒久的な宇宙ステーション、そしてスパンデックスのジャケットまで—が描かれています。
海底鉄道でニューヨークからパリまで90分
Undersea by rail
Ninety minutes from New York to ParisI.G.Y – Donald Fagen
ちょーオモロいことに、これ当時のアメリカでまじめな話だったんだよ。
子どものころ某○研の雑誌でも近未来ってことで、空飛ぶ車やチューブのなかを走る?飛んでる車を見た気がするよ😮
RAND研究所の資料を紹介します。ダウンロードできるPDF資料はタイプライターで打たれている感じで、時代を感じますね!
’76年には「A-OK」
んで、”76″って数字は、アメリカ建国200周年にあたる1976年のこと。音楽レビューサイト「Something Else!」の2012年の記事でも、そう解説されています。
1950年代後半から見れば、ほぼ20年後の未来はスゲーことになっている~~
Well by ’76 we’ll be A-OK
I.G.Y – Donald Fagen
ってことをフェイゲン独特のシニカル込みで書いてます。82年リリースなので「そんなことない」って分かってるのね…
さらにこの「A-OK」は、NASAの広報官だったジョン・「ショーティー」・パワーズ中佐が、報道陣向けの会見で「飛行士からの報告によると、すべてがA-OK(完璧)です!」と発表したことで、当時何それ?かっけ~って流行ったみたい。
語源にはいくつか説があるけど、ALL-OKとか、当時の無線の品質で最初の音が聞き取りづらいからOKの前に聞き取りやすいAをいれたとか、かんとか、らしい…
「思いやりとビジョンを持った」科学者たち
A just machine to make big decisions
Programmed by fellows with compassion and visionI.G.Y – Donald Fagen
ここの歌詞が強烈で、1976年はとっくに過ぎたけど、冷戦は続いてるし、経済は不況だし、あの頃科学者たちが言っていた『機械がすべてを解決してくれるクリーンで平和な未来』なんて1ミリも実現しなかったじゃないか?って現実があってからの科学者を「思いやりとビジョンを持ったfellows(やつら)」と表現している(ハズ)。
彼らがプログラムした機械(コンピュータ)に重要な決定をさせれば、「A-OK」だよ~~、って「自分たちを全能だと思い込んでいる、傲慢でちょっとズレた科学者ども」という強烈に皮肉な内容です(と思ふ)。😮
で、興味深いのがこの皮肉を踏まえたうえでの「令和4年度 東京大学学位記授与式 総長告辞」ですね。
まぁ~堅い話かと思いきや科学者としての姿勢・あり方を示しているのでしょう。ここに「I.G.Y」を持ってくるあたり、分かってらっしゃいますな(なんで上から~🙇♂️🙇🙇♀️)。
結論:I.G.Yは科学者のバイブル?スパンデックスのジャケット、まだ誰も着てません(笑)
歌詞(全文)
歌詞の全文は、こちらでどうぞ。
Donald Fagen – I.G.Y. | Genius.com
動画(アイ・ジー・ワイ)
では「ドナルド・フェイゲン」で「アイ・ジー・ワイ」です!ちぇけら!!
さてさてさて、どうでしたか?
サックスが哀愁を漂わせているよね。昔の”未来予想図”を聴きながら、今の自分たちがどう映るのか考えてみたり(、ラジバンダリ)するのもいいでしょう、たまにはね。
このAI時代、さて、20年後の未来はどうなっているのでしょうか?
ターミネータみたいになっていないことを祈ります…😅
“What a beautiful world this will be. What a glorious time to be free.”
ちょっとアコギなバージョンも紹介します。
どうですか?ドラム・ベースも表現されていて、どうやってんの?ってあまりにの表現力・再現性の高さにびっくりしました。
こうやって、若い世代に受け継がれていくのってなんかいいよね。🙂🙂🙂
夜もだいぶ更けてきました。
次回はいよいよキリ番、このシリーズの一区切りです。お楽しみに。
ではまた次回会いましょう。
ばいなら、ばいなら、ばいなら。
クレジット・参考資料
クレジットや参考資料などに関する情報です。
他にもあったほうがいいなって思う情報があれば随時追加していきます。
クレジット
I.G.Y. (What a Beautiful World)
リリース:1982年9月(シングル)/1982年10月1日(アルバム「The Nightfly」収録)
作詞作曲:Donald Fagen
プロデュース:Gary Katz
ボーカル/シンセサイザー/シンセ・ブルースハープ:Donald Fagen
エレクトリックピアノ:Greg Phillinganes
シンセサイザー/ホーンアレンジ:Rob Mounsey
ベース:Anthony Jackson
ギター:Hugh McCracken(アルバムのパーソネルではRick Derringerも併記)
ドラム:James Gadson、追加ドラム:Jeff Porcaro
ドラム/パーカッション・プログラミング:Roger Nichols
パーカッション:Starz Vanderlocket
トランペット:Randy Brecker
アルトサックス:Dave Tofani
テナーサックス:Michael Brecker
バリトンサックス:Ronnie Cuber
トロンボーン:Dave Bargeron
コーラス:Valerie Simpson、Zack Sanders、Frank Floyd、Gordon Grody
参考資料
・Robert Palmer「The Pop Life」The New York Times(1981年6月17日)※閲覧には登録が必要な場合あり
・Robert Palmer「POP LIFE; Donald Fagen Returns to 50’s Roots」The New York Times(1982年10月20日)※閲覧には登録が必要な場合あり
・Richard Cook「Donald Fagen: A Nightfly Up Against The Wall」New Musical Express(1983年1月22日)※Steely Dan Readerに転載
・Clive Young「The “Freebird” of Pro Audio」Pro Sound Newsのブログ(2011年1月24日、Internet Archive)


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